「スキップフロアと土間のある家の完成写真大公開!」と「推理小説に出てきそうな隠しドア」と「八起さんの一文字軒瓦」の巻/2025年7月号
お待たせしました!昨年12月に完成したK様邸の施工写真、いよいよ公開です。見どころたくさんの家なので、写真たっぷりでご紹介します。さらに、深大寺そばの八起さんの修繕工事もスタート。腰葺き屋根や一文字軒瓦の修繕の様子をレポートしています。こうした伝統的な建築様式は、これからも大切に残していきたいですね。
目次
1.調布市・K様邸(スキップフロアと大きな土間のある家)
2.西東京市・I様邸(鳥さん部屋と円形洗面室のある家)
3.三鷹市・O様邸(家族全員の個室がある注文住宅)
4.調布市・深大寺そば八起(続・店舗リフォーム)
◎調布市・K様邸(スキップフロアと大きな土間のある家)
昨年12月に完成したK様邸。後回しになっていた外観写真の撮影がようやく終わり、施工写真を公開できる運びとなりました。それでは早速、匠の技の展覧会のようなK様邸の施工写真をご紹介していきます。
まずは3種類の外壁材を貼り分けた特徴的な外観の紹介から。黒い部分は焼杉、その下は無垢の杉材、左側のうす焦げ茶色の壁はカラマツを貼っています。
別の角度から撮影したK様邸の外観。右下に見える大きなガラス戸は、土間スペースへの入り口。「夢まど」という断熱性能がとても高いガラス引き戸を使っています。
玄関は建物のこちら(北東)側です。水平に取り付けた大きな庇(ひさし)もK様邸の特徴のひとつです。
庇の端を見てください。台形型に造作しています。スッキリきれいに仕上げるのはなかなか大変でしたが、終わって半年も経ってみると、どうってことなかったような、また作ってみたいような気持ちになっているから不思議です。
K様邸の玄関アプローチ。玄関ドアは、ローバル塗装を施した特注のスチール製です。ローバルとは、錆止め用の亜鉛メッキ塗料のこと。塗装直後はシルバーグレーのマットな色合いですが、時間が経つにつれて、少しずつ濃淡や光沢が現れてきます。その変化を楽しめるのも、ローバル塗装の魅力です。
屋内の写真へ行く前に、外観の写真をもう一枚。北西側の壁に取り付けた、これまた特注の、スチール製の、ローバル塗装の窓枠です。窓枠の幅が一定でなく、幾何学的な形状になっているのが特徴です。
それでは家の中に入っていきましょう。まずは大きくて広い土間スペースから。表わしにした梁(はり)が、迫力があってカッコいいですね。左側が玄関ホールになっていて、土間スペースとは2枚の大きな引き戸で仕切れるようになっています。
続いて、玄関ホールです(左側に上の写真の土間スペースがあります)。真正面に設けた、植栽を望むピクチャーウィンドウが目を引きますね。天井にも注目してください。ヒノキ合板を「目透かし貼り」で仕上げています。これは、板材の継ぎ目にあえて隙間をつくって貼る方法で、隙間の幅をどれだけ均等に保てるかに、大工さんの腕が表れます。
玄関ホールの突きあたりに設けた、ピクチャーウィンドウと洗面スペース。このピクチャーウィンドウには、YKK AP社の高断熱窓「APW 430」を採用しています。APW 430は、トリプルガラスの樹脂サッシで断熱性能が高いぶん、窓枠もかなり「ゴツい」のですが、その窓枠を壁の中・床下・天井内に埋め込むことで、ガラス面だけが見えるスッキリとしたデザインを実現しています。
ここからはスキップ構造を採用した、ちょっと複雑でややこしい形状の、K様邸のLDKの写真を紹介していきます。
まずは1階の、造作ソファのあるくつろぎのリビング。ソファの正面には大きな掃き出し窓があり、その先には縁側を設けています。こちらの天井も、ヒノキ合板の目透かし貼りにしています。
1階リビングから、中2階にあるダイニングとキッチンを見上げた写真。ダイニングへ上がる階段は、踏み板を引き伸ばすように造作し、ソファの肘掛けとコンセント付き収納ボックスを兼ねたつくりになっています。
階段を上がって、ダイニングとキッチンのある中2階です。梁表しの勾配天井を採用していて、その勾配の根元に間接照明を仕込んでいます。
キッチン側からダイニングを撮った写真。キッチンカウンターの腰壁や背面収納の壁には、灰色のフレキシブルボードを貼っています。フレキシブルボードは、補強繊維を混ぜたセメントを圧縮加工した不燃材で、内装の下地材として使うことが多いのですが、マットで無機質な質感が人気で、最近は仕上げ材として使うことも増えています。
ダイニングの壁に造り付けた壁面収納。スッキリした仕上がりを重視して、釘やビスを使わず、「ビスケット」という接合部材を使って組み立てた力作です(月刊小野寺工務店2024年10月号に詳しく書いています)。あと、中2階に上がる階段にもご注目!8センチ幅の極細のささら、平行四辺形に加工した踏み板、2点溶接した三角形の手すり・・・もはや階段のカタチをした工芸品といってもいいような気がします。
ダイニングの斜め上、南側の窓際にはスタディルームを設けています。
キッチンから見たスタディルーム。なんだか空中に浮かんでいるように見えませんか?このスタディルームは、建物の構造的には2階にあたります。
本棚とカウンターを造り付けたスタディルーム。カウンターの正面には半透明のポリカーボネート板を貼り、その上部に間接照明を仕込んでいます。廊下の向こう側はプライベートスペースになっていて、洗面室や主寝室、子供部屋がレイアウトされています。
廊下の突きあたりに設けた、使いみち未定の遊び心のカウンター。左側は主寝室です。主寝室の引き戸の枠が薄くてスッキリしていると思いませんか?これは、枠の本体を壁の中に埋め込むことで実現しているデザインです(月刊小野寺工務店2024年11月号に詳しく書いています)。
◎西東京市・I様邸(鳥さん部屋と円形洗面室のある家)
完成に向けて、順調に工事が進んでいます。下の写真は、2階の階段ホール。階段を上がった正面には、マガジンラックを造作しています…というのは8割がた本当で、残り2割は間違っています。
実はこのマガジンラックは、書斎のドアを兼ねているのです。綾辻行人さんの推理小説「館シリーズ」に出てきそうな仕掛けだと思いませんか。
※綾辻行人さんの「館シリーズ」には必ず隠し部屋や抜け道が登場します。傑作ぞろいなので、推理小説好きの方はぜひ読んでみてください。
インナーバルコニーの窓際にしゃがみ込んでいるのは、鉄骨屋の職人さんです。下着が少し見えていますが、見ないようにしましょう。これから手すりを取り付けるので、レーザーレベルという機械を使って、墨出しをしているところです。
こちらが、これから取り付けるアイアン製の手すりです。荷台の上に乗っているのが階段用、トラックから下ろしてあるのがインナーバルコニー用です。
取り付け完了の図。インナーバルコニーの正面は緑豊かな公園。折りたたみ式の窓サッシをフルオープンにすると、自然の中のコテージにいるような雰囲気を味わえます。
インナーバルコニーの横にはサワラ材貼りの浴室。ああ、早く入りたい!(実際には入れませんが)
こちらは階段横の2階の廊下。実はI様邸の2階トイレは廊下にあるのです…というのはもちろんウソ。廊下の真ん中に、不思議なくらい収まりよく置かれたトイレが面白くて、ブログ用に写真を撮ってみました。
これが正しいトイレの写真です。棚板の手前側、少し広くなっているところには、このあとかわいらしい手洗い器を取り付けます。
下の写真は、円形洗面室の中にある造作洗面台。洗面台の表面に、小さなタイルを貼り付けているところです。こうした小型のタイルは、施工しやすいようにシート状で納品されます。なので、壁など、平面かつ直線状のものに貼るのはなんてことない作業なのですが、今回のように曲面かつ楕円形のものに貼るとなると、とたんに難易度が跳ねあがります。タイルを加工しながら、ひとつひとつ貼り付けていく必要があるからです。
苦労の末、タイルの貼り付けが完了した洗面台。まさにタイル職人さんの根気の結晶です。住宅設備の域を超えて、美術工芸品の世界に片足を突っ込んでいるような気がします。
◎三鷹市・O様邸(家族全員の個室がある注文住宅)
O様邸の家づくりも順調に進んでいます。
下の写真は、構造用合板の上に「ゴールドコート」という気密塗料を塗り終えたところです。ゴールドコートは、乾くとゴムのようになる素材で、小野寺工務店の家づくりでは外壁全体に二度塗りしています。当社の家の高い気密性能を支える、ひみつのひとつです。
もう一枚。ゴールドコートを塗り終えた写真。このあと、この上から付加断熱(外断熱)用の断熱材を貼っていきますが、その様子は来月号で紹介したいと思います。
家の中では、セルロースファイバーを使った充填断熱工事が、着々と進んでいます。脚立の上に乗った男性(古川さん)が、壁の内側に勢いよくセルロースファイバーを吹き付けています。セルロースファイバーには、トウモロコシ由来の天然の糊成分があらかじめ混ぜてあり、霧状の水といっしょに吹き付けることで壁の内側に固着する仕組みです(ウォールスプレー工法といいます)。
壁の中からはみ出した、余分なセルロースファイバーは、専用のローラーでそぎ落としていきます。
充填断熱(内断熱)工事が完了しました。セルロースファイバーは、発泡ウレタンフォームなどと違い、吸音性能に優れているため、工事が終わると音の反響が減り、現場が少し静かになります。
◎調布市・深大寺そば八起(続・店舗リフォーム
下の写真は、深大寺の参道にあるそば屋の八起さんです。6年前の夏、写真右側の建物の大規模な店舗リフォームを行ったのですが、今回、写真左側の建物のリフォーム工事を行うことになりました。
※6年前の工事の様子はこちらに載せています→月刊小野寺工務店2019年8月号。しかし月日の経つの早いですね…。
こちらが、今回リフォームを行う建物です。右側と同じように壁を板張りにし、屋根の修繕も行います。
店舗リフォームの場合は、工事期間を短くするため、できるかぎりの下準備を進めておきます。下の写真は当社の作業場。壁に貼る杉板に保護塗料を塗り、乾かしているところです。
これも作業場の写真。細長い木材は、壁に貼った杉板を上から固定する押縁(おしぶち)です。
それでは、現地から工事レポートをお届けします。まずは、現在の壁の上にヒノキの下地材を入れていきます。壁が傷んでいる場合は壁を作り直す必要がありますが、さいわい現在の壁はしっかりしているので、このまま上から板を貼っていきます。
下地材の上に、杉板を下から上へ重ね合わせながら貼っていきます。この杉板のことを「下見板」といいます。
下見板を貼り、その上から押縁で固定したら、板張り完成!となります。
さて、ここからは屋根の修繕工事の様子です。まずは修繕前の写真をご覧ください。緑青色になっている部分は、錆びた銅板です。このように金属屋根と瓦葺きを組み合わせた屋根を「腰葺き屋根」といいます。高級な屋根ですが、何十年も経つと酸性雨の影響で、雨水が垂れる瓦屋根の下端の銅板が腐食するため、定期的な葺き替え(といっても30年ほどは持ちます)が必要です。今回は、この屋根ができて約60年目にして初めての葺き替えとなります(ちなみに、この建物を建てられた工務店さんはすでに廃業されています)。
黄色矢印の瓦のおさまり方を見てください。隙間がなく、真直ぐピッタリ収まっています。こういった仕上げ方を「一文字軒瓦」といいます。焼き物である瓦は、丁寧に焼いても、多少の歪みや凸凹ができてしまいます(焼成ムラといいます)。それを瓦職人さんが一枚一枚削りながら仕上げる必要のある、これまた手間のかかった高級な屋根です。
瓦と銅板の境の漆喰をカッターを使って剥がしてみました。やはり銅板の腐食が進んでいます。このままだといずれ雨漏りするので、銅板の葺き替えを行っていきます。
下の方の瓦をはがし、腐食した銅板を新しい銅板に葺き替えました。この新しい銅板ですが、当初、光沢が強すぎるとの理由で、調布市の景観条例に引っかかり「使用NG」という通達があったのです。もっと落ち着いた色にしなさい、というのです。しかし、新品の銅板はどれも同じような色で、銅板を使わないことにはこの屋根の修繕はできません。そこで調布市のまちづくり推進課に相談し、担当者、その上司、さらにそのまた上司の決裁を経て、ようやく使用可能となりました。まさに一苦労でした。
瓦の下の葺き土(ふきつち)。この土を崩してしまうと、一文字軒瓦のきれいな直線がガタガタになってしまい、一からやり直しになってしまいます。なので、けっして土を崩さないよう、慎重に慎重に作業を進めていきます。
慎重かつ丁寧に60年前の一文字軒瓦を再現する瓦職人さん。伝統というのはこうして未来に受け継がれていくのでしょう(ちょっとおおげさですね)。
(続く)