恒例の「年忘れ寄席」

毎年恒例の、 『府中の森芸術劇場 年忘れ寄席』に行って参りました。 お目当てはもちろんトリの柳家小三治師匠ですが、 今回は前座さんからシビれました。

前座さんの軽快な噺から、熟練のたっぷりと聴かせる技へ、 演目の順番もとても良かったのです。

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●● 隅田川 馬石         演目: 『四段目』

当時、お芝居で一番人気だったのは『仮名手本忠臣蔵』 中でも塩谷判官の切腹場面のある四段目は、芝居通を 魅了していました。

さて、仕事をさぼって芝居見物に出かけていたことが旦那様 にバレた奉公人の定吉は、罰として蔵の中に閉じこめられます。 いつ出してもらえるとも分からない蔵の中で、お腹はペコペコ。 空腹を紛らわそうと定吉は、見てきたばかりの四段目を 一人芝居で真似して遊び始めます。

そこへ通りかかったお女中、 定吉が切腹自殺を図ったと勘違いし・・・

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この噺の見せ場は、定吉の演じる芝居の名調子です。 馬石さんの定吉は、何とも憎めない愛らしさに溢れていました。

この時代、丁稚(でっち)奉公に出されるのは10歳前後だった そうです。 芝居好きでお調子者で、でも幼くして丁稚として働く健気さとが ヒシヒシと伝わって来ます。 奉公噺は笑えて、いつも少しジンとしてしまいます。 馬石さんの今後のご活躍に期待大!です。

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●● 古今亭 菊丸     演目: 『幇間腹』

ありとあらゆる趣味に手を出し、やる事が無くなってしまった 道楽者の若旦那。 今度は困ったことに鍼(はり)医の仕事に興味を持ちはじめます。 練習ばかりしていると、誰かに試してみたくなってくるのが人の常。 「人体実験」の白羽の矢が立った太鼓持ちの一八に災難が降り かかります。

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幇間(ほうかん)というのは太鼓持ちの事です。 現代では、太鼓持ちというと 「よ!部長!さすがにフォームが違いますね!ナイショット!」 なんてゴマ擦り上手な人のことを言いますが、

「太鼓持ち」はれっきとした職業だったのです。 幇間(ほうかん)、太鼓持ち、男芸者とも呼ばれていました。 実は今も日本に5人いらっしゃるそうです。

旦那にお伴し、いつでも旦那のご機嫌に気を配り お芸者さん方と旦那の間でお座敷の場を盛り上げます。 馬鹿の皮を被った利口でないと務まりません。

菊丸さん演じる太鼓持ちの一八っあんの、その人柄とノリと 抜け目なさは圧巻でした。

マクラ(本編に入る前のプロローグの事です)からネタに入り 一八っあんが登場した瞬間、パーっと会場が明るくなったような 気が致しました。

何いってんですか、若旦那! あたしゃ若旦那の為だったらいつでもこの首差し出す覚悟が 出来てるンですよ!針の一本や二本! え、今まで打ったのは、壁に枕に猫、人間はあっしが初めて!?

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●● 柳家 小三治        演目: 『芝浜』

そして大トリは、待ってました! 柳家小三治師匠の「芝浜」です。

魚屋の勝っあんは、酒ばかり飲んで仕事に身が入らない毎日。 ある朝早く女房に叩き起こされ、嫌々ながら芝の魚市場に向かう その途中、偶然浜辺で財布を拾います。

その中には四十二両もの大金が・・・ 有頂天の勝っあんは自宅に飛び帰り、もう仕事なんてやって られるか!と仲間を呼んで飲めや歌えの大騒ぎ。

翌朝、いつものように「働きに行け」と女房に叩き起こされ、 財布を拾ったのは夢であった事を知らされます。 そして、心を入れ替えて仕事に精を出すようになり、商売も繁盛し 子も授かり、あの夢を見た日から三年経った大みそかの夜のこと・・・

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小三治師匠が芝の浜で煙管を吸います。 火打石で火をおこし、んーーーーーっぱ と、 それは美味そうに一服。

そうすると冷たい風が頬にあたり、白々と浜の夜が明け潮の 匂いが漂ってくるのです。

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噺家さん、というのは当たり前のことですが 「話が上手な人」 とは全く違います。

鍛錬と、その人の持って生まれた華が、一枚の座布団の上で 弾ける芸の世界です。 その魅力にぐいぐいと引き寄せられて、聴き終った後はいつも 少しぼんやりしてしまいます。

大工も、職人も、噺家も、 技術を磨く鍛錬は、きっと同じですね。

師走に小三治師匠の芝浜が聴けて、大変光栄でした。 またお目にかかれる日が待ち遠しい、 まさに「夢」のような一夜でした。

m,nami


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